「何でだよ露李っ!!」


結が叫ぶ。肩が跳ねた。


「結。叫ばないで」


文月が腕を組んで立った姿勢のまま結に言った。


「悪いけど、露李。それは不可能」


きっぱりと拒否され、水無月を見つめ返す。


「どうしてですか」


「忘れてるか知らないけど、俺霊体だから。露李を守れない」


「守ってもらおうと思ってるわけじゃありません。ただ、連れて行って下さい」


困った顔をする水無月。


「どういうことだ、露李。守護者の俺たちはお払い箱か」


疾風が露李に訊ねた。


「ちがっ、」


「じゃあどうしてだっつってんだよ」


理津にも見つめられ、俯く。


「花霞は、私がいない方が良いんでしょ?」


否定は、できない。


「私がいなくなれば、花霞はあのまま。皆は封印に縛られることなく生きていける」


ね、と水無月に視線を戻す。


「まあ。今の露李なら、強いけどさ…」


「行きましょう」


「露李先輩っ」


「露李、お前は何も分かってない!!」


「どっちが大事ですか?」


言わんとしていることはすぐに分かった。

いずれ災厄を解き放つか、露李を取り戻すか。

究極の選択に見えるが、そういうことだ。


「だから、もう」


水無月が露李の前に立った。

それ以上は言わせない。


「露李、馬鹿だね」


お互いに傷つくようなこと言おうとして。


「露李は有明様の元へ連れて行く」


「なっ、水無月!!」


「露李が決めたことだ」


ふわりと透明な腕で抱きかかえる。

一足飛びで外へ出る。鬼の力が開花したままなので、速さが桁違いだ。

神社の境内が後ろに見えた。

朝陽が辺りを照らし始めていた。

一日中、守護者たちは気を送ってくれていたのか。

水無月は罪悪感に駈られた。

裏切ったようで。


「露李、いいの?」

「…だって、皆が死んじゃうよりましですよ」


─そんな泣きそうな顔で言われても説得力ないよ。

ここに居たいって言ってるようなもんなのに。


「露李!!」


五人が追って来ていた。


「来ないでっ!!」


決心が揺らぐ。

叫んだ瞬間光が弾ける。


「あ…」


自分が刺されたような顔をする露李を、五人は静かに見つめる。


「皆、さよなら」


くるりと前を向く。

だがしかし、守護者たちには見えていた。

露李が泣いていたことに、気づいていた。


「露李、有明様のところへ行くって祈って。それからジャンプして」


水無月の指示が下る。

それに頷き、祈る。


「行くな露李!」


疾風の声を最後に。



二人の姿は、見えなくなった。