続・祈りのいらない世界で

「明日も大学休みだからよかったものの、ちょっと騒ぎ過ぎたな」

「どうせイノリ昼まで寝てるでしょ」

「そうだな」



暫く電車が走っている音だけが響く電車内。

するとキヨはイノリの肩に頭を乗せた。




「寝たのか?…今日は疲れたよな。よしよし」

「…寝てないよ…」

「無理するな。俺起きてるから、駅着いたら起こしてやるよ」

「…ん。」



この時キヨは目を瞑ったが、寝てはいなかった。


レールの音と電車の揺れでイノリは気付いていなかったが、キヨは泣いていた。




「…ごめんな。俺はお前を傷つけてばかりだ。俺は何がしたいんだろうな…。優しくしたり、守ったり、抱きしめたり、甘やかせるのに…大切な事は何も言えないし、してやらない。俺はお前から離れた方がいいのかもしれないな。……でもそんなの耐えられない。お前がっ……いないのは嫌だ…」



キヨが寝ていると思っているイノリは、自分の肩にもたれているキヨの頭に頭を乗せながら呟いていた。



膝に置いているキヨの手にイノリの涙が零れ落ちても、キヨは寝たふりを続けた。






なんでこの時、私は寝たふりをしてしまったのだろう。

やっとイノリの心の隙間が見えたのに…





この時、イノリを優しく抱きしめていたのなら

イノリの弱さを受け止められていたのなら


これから先訪れる残酷な未来なんかなかったのかもしれない。





ごめんね。

全てを理解しながら、全てを受け止められなかった弱い人間で。


強いイノリの弱さに戸惑うだけしか出来なかった子供で。



イノリは私を全て受け止めてくれていたのにね。




……ごめんなさい。








2人を乗せた電車は、静かにレールの上を走っていた。