続・祈りのいらない世界で

「ただ泣き虫なお前を守ってやりたい。物心ついた頃からそばで守ってきたんだ。今更、彼氏だの彼女だのそんな関係にならないと優しくしちゃいけねぇのか?…キヨにとって、俺は何なんだよ」


「…イノリ…」


「俺は恋人になる事が全てだとは思わない。恋愛感情なんて一時の迷いだ。だったら、今の関係のままの方が幸せだと思うけどな…。そんな考えをする俺が間違ってるのか?」



頭の弱いキヨは、イノリの言っている意味が理解出来なかった。



だって今の関係は

ただの幼なじみで
ただの親友で
ただの同居人で


特別な存在ではない。





だったら恋人になって、イノリの中の特別な存在になりたい。

そう思うから…






でも今ならわかる。
イノリは恐かったんだよね。


特別以上の存在なんてないから、特別になってしまえば後は下に落ちていくだけ。


いつか自分の特別より上の特別が出来てしまうかもしれない。



だから恐かったんだよね。






あの頃の私は、ただイノリに振り向いて欲しくて自分の気持ちを優先していた。


イノリの心の傷に気付かずに…





「…何も恐がらなくていい。彼氏になんかならなくたって、俺はいなくなったりしない。お前はそれが恐いんだろ?…大丈夫。いなくならない。隣にいるよ」



そうじゃない。
そうじゃないんだよ、イノリ。


私はイノリが大好きだから、イノリにも好きだと言って欲しいだけなの。





…でもわかったよ。

イノリが私の彼氏になる事は今もこの先もないんだって。



だからもう…
私もイノリを諦める。




望みがないなら
未来がないなら
イノリに届かないのなら…


諦めるしか私にはもう選択肢が残されていない。





キヨは告白もしていないのに何故だかフラれた気持ちになり、涙が止まらなかった。