続・祈りのいらない世界で

「…イノリは、私と幼なじみに生まれてなかったらどんな人生を送っていたと思う?」


「は?何だよいきなり。どんなって言われても、幼なじみで生まれてきたんだから、わかるわけねぇだろ。想像もつかねぇよ」


「私は幼なじみで生まれてこれたから、イノリやカゼ達のそばにいれる。もし赤の他人だったらきっと、イノリのそばにいる事なんか出来ないんだろうな。イノリ達は私なんかに見向きもしないだろうし、カゼに告ってフラれてる女の子達みたいな感じだったのかな。
幼なじみじゃなきゃ私達、性格合わないしね」



キヨが悲しそうに笑うと、イノリは上半身を起こした。




「確かに他人に生まれたらそうだったのかもな。でも、俺らは幼なじみに生まれてきたんだ。だからその“もしも”は必要ねぇよ」




そうだけど恐いんだよ。


イノリ達の幼なじみが私じゃなくて、違う子だったらどうなっていたんだろうって思うと。



カンナが与えてくれる包み込む優しさや、ケンがくれる明るさ、カゼの確信をつく言葉


そしてイノリの全てが他の子に向けられていたのだとしたら…




もしもが起こっていたらと思うと恐いんだよ。




キヨが俯くとイノリが優しく囁いた。




「…お前が幼なじみじゃなくたって、俺はお前のそばにいたよ」


「え?」


「お前みたいな奴、俺にしか手に負えないだろ。どんな出会い方をしても出会ってさえいれば、お前の面倒見るはめになってたよ、絶対。…まぁ幼なじみじゃなきゃ、もう少し楽が出来たかもしんねぇけどな」



イノリは笑うと、腕で顔を隠し再びベンチに寝そべった。





…イノリは狡いよ。


イノリが何気なく呟く言葉がどれだけ私を幸せにしてるかわかってるの?



どうしてここまで惚れさすかな…




嬉しくて泣きたくなったキヨは、天井を見上げた。


周りからは他の客の声が聞こえる。




沢山の人が存在するこの世界で5人の幼なじみとして存在している奇跡に、キヨはこの上ない幸せを感じていた。