続・祈りのいらない世界で

「カンナはもちろんの事、イノリとカゼも野菜や肉の切り方は雑だけど、意外に料理上手いし…。いつも出来合いのお弁当やお惣菜を買うだけのケンには負けないようにしないと」



キヨはブツブツ呟きながらイノリの部屋へと入った。

先程よりは顔色が良い。



キヨはイノリの汗を拭くと冷却シートを貼り替えた。




「…イノリ。好き。大好き。今は寝顔にしか言えないけど、いつか起きてるイノリに伝えられたらいいな…」



キヨはイノリの髪を触ると、汗ばむイノリの手を握ってベッドに顔を伏せた。




今は恐くて不安で、イノリに聞こえない時にしか告げられない想い。


いつか伝えられる日は来るのかな?
溢れ出しているこの想いをイノリに…



苦しいよ
悲しいよ
虚しいよ

こんなに近くにいるのに
こんなに触れられるのに


口に出来ない
叶わない

この恋心が辛い。




「…イノリは誰が好きなの?」



イノリが私じゃない他の誰かを好きになるなら

私とは何の関係もない、全く知らない人がいい。




もしカンナのように身近な人だったら、祝福なんかしたくないのにせざるを得なくなってしまうから…



私は見たくない。

イノリが他の誰かと幸せそうに笑っている顔を。




私は祝福なんか出来ない。

イノリが他の誰かと幸せになってほしいなんて、願えないから。






キヨはイノリの顔を見つめながら眠りについた。