続・祈りのいらない世界で

「…うん、何?」


「俺はお前が思ってるよりずっと弱いし、カッコ悪いよ。
お前の幸せより自分の幸せを考える、そんな男だ」


「それでいいよ。いいんだよ、イノリ」



キヨはイノリの手を掴むとキュッと握りしめた。





「私は幸せにしてもらおうなんて贅沢な事は思ってない。イノリと一緒に幸せを感じられればそれでいいの」




人はきっと、誰かを幸せにしたいと思って幸せにする事なんて不可能だ。



幸せは作るものじゃない。

何気ない瞬間に感じるものだと思うから…。





「だから…イノリと私が幸せだと思う事が同じだったらいいね」


「…お前はたまに可愛い事言うよな。てか、幸せだと思う事が同じだから好き合ったんじゃねぇの?」


「あ…。そうかも」




苦笑いをするキヨを見てイノリも笑う。




「なぁ美月。お前は、お前の人生を俺に託して良かった?後悔はしてないか?」


「うん。イノリがそばにいてくれるだけで私は幸せなんだよ?…いっぱいいっぱい幸せをありがとう、イノリ」



結婚式前夜、お互いの気持ちを再度確かめ合ったキヨとイノリ。




イノリは優しく揺れるキヨの目を見つめながら

『死ぬまでそばにいるよ』

と呟いた。




その言葉は、イノリがそばにいる事が幸せだと言ったキヨに

死ぬまで幸せであれということ。





新婚なんだから四六時中甘い雰囲気でいたいと思っていたキヨだが


たまに甘いイノリだからこそ、愛を感じるのだと思った。