続・祈りのいらない世界で

屋上に着いたキヨはゆっくりドアを開く。



「…イノリ」



屋上にあるのは物干し竿と自動販売機とベンチ。



そしてドアに背を向けてベンチに座り、空を見上げている1人の男性。




その背中はどこか頼りなかった。




「イノリ」



キヨは名前を呼びながらイノリに近付くが、イノリはピクリとも動かない。



そんなイノリをキヨは後ろから抱きしめた。




「イノリ…。イノリ、ごめんね」

「………………」

「…今、顔見ても大丈夫?」



キヨはイノリの目の前に回り込むと、目に掛かっているイノリの前髪を掻きあげた。


イノリの目は一点を見つめたまま動かない。





「イノリ、私だよ。美月。ちゃんと顔を見て」



キヨはイノリの両頬を掴むと、自分の顔と向き合わせた。


うわのそらのイノリの目と暫くして視線がぶつかる。




「イノリ」



キヨが名前を呟いて微笑むと、イノリの目が段々と見開かれていった。




「…?イノリ?どうしたの?」


「あああああああああああああ」



突然立ち上がったイノリは、言葉では表現出来ない程の奇声を発しながら嗚咽を始めた。



驚いたキヨは、顔を両手で押さえながら泣き叫んでいるイノリに抱きつくと、イノリの体をフェンスに押し付けた。