「…俺はカゼみたいに気の利いた事なんて言えないけど…もしカゼが生きてたらこう言うと思うよ」



ケンは両手で自分を抱きしめて縮こまっているイノリにソッと呟いた。




「………キヨがイノリを置いて何処かに行くと思うか?そんなの…ありえないよ。だから大丈夫」



カゼの口調を真似してか、穏やかにそう呟いたケン。




いつだってキヨから離れていくのはイノリで


イノリがキヨを突き放しても、離れていっても

キヨがイノリから離れていこうとした事なんて一度もない。



ケンはそれを伝えたかった。





「…明日は会社に行くんだろ?キヨにはカンナが付き添うって言ってたから俺らはフウと一緒に帰ろう」


「…あぁ」



その後、カンナにキヨを任せて帰宅したイノリとケン、そしてフウ。



翌日、仕事に行ったイノリは早めに帰宅した。




「…たでーま」



イノリが玄関でボソッと呟くが、誰の返答もない。



いつもならドタドタと嬉しそうにキヨが玄関に走ってくるのに……