続・祈りのいらない世界で

キヨは涙に気付かないまま最後のページを読んだ。




『キヨ。大丈夫だ。

イノリは必ずキヨの元に帰ってくるから。

辛いのは今だけだからね、大丈夫だよ。



だからイノリが帰ってきたら、強がらないで“おかえり”って言ってあげるんだよ。



誰よりも辛い体験ばかりしてしまうキヨ。

でもそんなキヨだから、誰よりも幸せになれるんだよ。



大丈夫。
絶対大丈夫。


俺が願っててあげるから。

神様にでも、星にでも。




もし神様も星も叶えてくれなかったら

俺が叶えてあげるよ。



だから大丈夫だよ。』




カゼの日記はそこで終わっている。


キヨは日記を強く抱きしめると、大声で泣き叫んだ。




「うあああっ!!カゼ――っ!!!!」




キヨがカゼに語り掛けた瞬間、タイミングよく落ちた日記。


その日記の内容。

吹き込む風。



まるでカゼが答えてくれているみたいだった。





「………キヨ。キヨはイノリとの子どもを産んでいいんだよ。イノリの子どもを産む資格があるのはキヨだけなんだ」


そんな気がした。





お化けや怪奇現象が苦手なキヨ。


でもカゼが幽霊として現れて、この日記を落としてくれたとしたなら幸せだと思った。

カゼなら幽霊でもいいから会いたいと思った。





キヨは辺りが暗くなり、家の中も真っ暗になっても日記を抱きしめていた。




「たでーま。…ん?誰もいねぇのか?美月?」



仕事から帰ってきたイノリは家中の電気をつけると、キヨを捜す。




「美月っ!おーい、美月!!」



イノリは自分の部屋やキヨの部屋に入るが、キヨはいない。




「…カンナ達と一緒に地元帰ったのか?」



イノリがリビングに向かおうとするとカゼの部屋から物音がした。



イノリがカゼの部屋に入ると、床にしゃがみ込んだキヨの後ろ姿が月明かりに照らされていた。