続・祈りのいらない世界で

キヨはカンナに薄く微笑むと、分娩室の中に運ばれ、分娩台に乗せられた。



「美月はもう20時間くらい陣痛と闘ってるから、疲れちまってんだよ」


「20時間!?私は破水してすぐ産まれたから4時間くらいだったけど…」


「てか、キヨ大丈夫かな?体、弱いのに」



不安そうに分娩室を見つめるカンナとケン。




「…“母強し”だろ?美月はもう、ちゃんと母親になってるよ」



イノリはフウの頭を撫でると、分娩室の中に入っていった。






出産はこれからだというのにキヨの意識は薄い。


もう陣痛の痛みさえ、分からなかった。




「…イノ…リどこ…?…ちゃんと…いる?」



虚ろな目をしているキヨは、弱々しく手を振りながらイノリを捜していた。




「いる。ちゃんとここにいる。…ほら」



イノリは振っているキヨの手を両手で掴むと、ギュッと握り締めた。




「奥さん、子宮口開いてきましたよ。赤ちゃんが早くママに会いたいと頑張ってる証拠です。奥さんも頑張りましょうね」



優しく声を掛けてくれる助産婦。



意識が薄いキヨは、自分が今何をしているのか把握しきれていなかったが

助産婦の掛け声のもと、無意識の内にいきんでいた。





いきみ、痛み、深呼吸の繰り返しをして2時間後。



「…ぉぎゃああああ!」



あと数時間で日付が替わる4月13日21時44分。



世界中に聞こえそうなほどの大きな産声が、分娩室に響き渡った。





その声を聞いたキヨは、さっきまでの痛みや苦しみが全部、吹き飛んでいくのを感じた。