続・祈りのいらない世界で

「……まま、ぽんぽん、いたいいたい、ない?」

「ん?痛くないよ」



フウはキヨを見てニッコリ笑う。




「……いいこね。あーちゃん(赤ちゃん)」



最近のフウはキヨのお腹を触ったり撫でたりしては、話し掛けるようになっていた。


まるで弟か妹が生まれてくるのを心待ちにしている兄のよう。




キヨはフウを抱き上げるとギュッと抱きしめた。



「大きくなったね、フウ。今年で3歳だもんね」



子どもの成長は早い。


だからこそ、その時しか見れないフウの姿をちゃんとカンナに見て欲しい。



フウはカゼがこの世にいた証でもあり、カゼとカンナの愛を形にしたもの。



それだけかけがえのないものなんだと、早く気付いて…。





私は自分が無力だって事も痛いほど知っている。



だから、責任とか無力だとかそんなの関係ない

私にしか出来ない

今、お腹の中にいる赤ちゃんを生む。



それが出来たら、私にも何か出来るんだって思えるはずだから

今は何もしない。



もう少し、あともう少しだけ待っててね。カンナ。





「たでーま」

「おかえり、ダーリン♪」

「ダーリン!?……って、何でお袋がいるんだよ!!」



仕事から帰ってきたイノリを出迎えたのは母。


イノリの母はキヨになりきったフリをする。



「何言ってるの、ダーリン。私は美月よ♪あなたの可愛い奥さんじゃない」


「気持ちわりぃーんだよ!!美月の顔にそんなに沢山の皺はねぇ!それに美月は俺をダーリンなんて呼ばない」



「パパとも呼ばせてくれないけどね」



玄関で騒いでいる北山親子の元へやってきたキヨは、ポツリと不安を漏らす。




「祈は減らず口なクセに照れ屋だから嫌よね。美月ちゃんに愛想尽かされても知らないからね」


「うっせぇな!!お袋は家に帰れ!親父に浮気されるぞ!」




仲良く口喧嘩をする親子に笑いながらキヨはリビングに戻った。