「ふーん、ケンがねぇ。あいつもしっかりしてきたな」



その日の夜中。

再び出血したキヨは、落ち着くまでイノリとソファの上で寄り添っていた。




「ケンが他の誰かを好きになろうと、カンナがケンを好きになろうと、それは2人の自由だし止める権利もない。…だけどね、何だか寂しいんだ…」


「寂しいって何が?」


「大人になる度、何かが変わる。子どものままでいられないんだって改めて思い知らされるから…」



いつか、私の中のイノリへの気持ちも薄れていってしまうのかな?


イノリが私に飽きる日が来ちゃうのかな?



先のことなど誰にも分からないし、見えない。



だから寂しい。
だから恐い。




「泣くな。お前は俺に愛されてるんだから十分だろ」


「別にケンに好きじゃなくなったって言われたから泣いてるんじゃないもん」



キヨがイノリの肩に頭を乗せると、イノリはキヨの頭を優しく撫でる。




「…大丈夫。俺は心変わりなんかしない」



うん。
そうであって欲しい。



イノリはずっと

変わらないでいて欲しいよ。






流れゆく時間と共に
人の気持ちは変わっていく。


それは当たり前のことであり
止める事など出来ない。



忘れていたその気持ちを痛感したキヨ。





「…あ。動いた」

「どれどれ」



イノリはソファから降りて跪くとキヨのお腹に耳を寄せた。


お腹はポコポコと赤ちゃんが動いている音がする。




「いいな、イノリは。陽ちゃんの動いてる音が聞けて」

「お前は動いてるのが分かるじゃねぇか」

「そっか!おあいこだね」


キヨはクスッと笑うと、目の前に屈んでいるイノリの額にキスをした。




「いきなり何すんだよ!!」

「いつもはイノリがしてくれるでしょ?だから私もしてあげたの」

「お前はすんな!!されてろ!!」





少し照れたように笑うイノリを見たキヨは


凄く、幸せな気持ちに包まれた。