『
人間に恋愛感情なんてなければ良かった
そんな気持ちさえなければ
毎日がただ楽しく過ぎていくのに
こんなに切ない思いや悲しい気持ちを感じて
涙を流すことなんかないのに
でも“好き”だという気持ちがあるから
幸せを感じることもあるよね
ありがとう
それを教えてくれたのは大好きな君で
君を好きになって
いっぱいいっぱい幸せになれたから
隣りにいるしか許されなくてもいい
愛してるって声が届かなくてもいい
でもいつか
この声を、言葉を
君に伝えられたらいいな
“…愛してる”
たった一言のこの言葉は
ずっとずっと
君だけの為にある言葉だから
伝えられる日まで
大切にしておくね
』
歌い終わったケンがキヨを見るとキヨはポロポロと涙を流していた。
優しいギターの音色と柔らかなケンの歌声
そしてイノリへの想いそのものの切ない歌詞全てがキヨの胸に響いた。
「素敵な歌だったよ。ミュージシャンへの第一歩になる曲を私に作ってくれてありがとう」
「キヨ。俺、絶対売れっ子ミュージシャンになるから、そしたらライブの特等席はキヨの席にしてあげるね」
「うん!約束ね」
キヨとケンが指切りを交わしてから、長い月日が流れた。
高校生になったケンは軽音楽部に入り、バンドを組むと本格的に活動を始めた。
いつしかケンの部屋にはアンプやベース、ドラムまでもが置かれるようになり
大学生にもなると、小さなライブハウスで歌うようになった。

