続・祈りのいらない世界で

キヨはカンナに手を振ると、食事の準備を始めた。



キヨがチャーハンでも作ろうかと、炊飯器を開けると水蒸気が立ちのぼる。


キヨはその匂いを嗅いだ瞬間、吐き気に襲われた。




「うぇっ…!!げほげほっ!!」



キヨはシンクに顔を伏せると、吐いた。




「…夏バテかな?今年の夏は異常に暑いし…」



キヨは口を濯ぐと、飲み物だけを持ってリビングへと向かった。



ソファに座りカゼの写真を見つめると、キヨは気付いた。




あの吐き気。
前に妊娠していた時と同じような感覚。



「…もしかして…イノリとの…」



キヨは家に置いてある救急箱からカンナが買っていた妊娠検査薬を取り出し、トイレへと駆けていった。



検査薬の反応は陽性。



喜ぶべき出来事だが、キヨは素直に喜べなかった。




「…どうしよう。私は産んでもいいの?私なんかが産んでいいの?」



キヨは泣きたくなる気持ちを堪えながら、無意識の内にカゼの部屋に足を運んでいた。



カゼの部屋は何ひとつ変わっていない、カゼが使っていた時のままにされている。



カゼの部屋は、カゼが愛用していた香水の匂いがする。

ベッドもまだほのかにカゼの匂いがした。




「カゼ。私、産んでもいい?カゼとの赤ちゃんはいらないって思った残酷な私が、イノリの赤ちゃんだからって産んでもいいと思う?」



キヨはカゼの枕を抱きしめながら呟いた。




「…カゼっ!!教えてよ!!私はどうすればいい?」




カゼがもし生きていたら何て言ってくれるかな?

カゼの事だから祝福してくれるかな?



でもカゼが生きていたらイノリとの子どもを妊娠する事なんかなかったよね。




今イノリといられるのは、カゼがくれた奇跡だと思っているから。


カゼがイノリと向き合うきっかけをくれた気がするから…