「イノリ、知ってる?人は1人では半分の人間でしかないんだよ」


「半分?」


「うん。人間は1人だと不完全だから誰かを好きになるの。

人間には欠けている部分が必ずあって、それをピッタリと埋めて完全にしてくれる人がいるんだって。

…でも完全にピッタリとくっつく人は世界に1人しかいないんだよ」



キヨは片手でハートの形を作ると、イノリにも片手で同じ形を作らせその手を重ねた。




「それが運命の人なの。何かロマンチックだよね」


「じゃあ…俺の欠けてる部分を埋められるのは美月だけって事か。お前は俺の片割れなんだな」



イノリにしては珍しいほどの甘い言葉がくすぐったいキヨ。

何だか恥ずかしかった。




「どこで聞いたかは忘れたけど、この話を思うと運命や赤い糸の相手は生まれる前から決まってんだなって思うよね」


「夢見がちなお前が考えた話なんじゃねぇの?…まぁ悪くない話だけど」



イノリはキヨの頭を撫でると自転車に跨った。

キヨも荷台に座る。





イノリの背中に寄せた耳から聞こえる心臓の音。


その鼓動はキヨの全て。




クリスマスを待ちながら賑わう街の喧騒が聞こえない程に、規則正しいイノリの鼓動をキヨは聞いていた。





キヨに足りない部分を埋めたのはイノリ。

イノリに足りない部分を埋めたのはキヨ。





この世の全ての人も

自分に足りない部分を埋めてくれる相手を選んで幸せになっているはず。



それが『運命の相手』。