「ねぇ。まだ私達が小さかった頃、私泣き虫で、星が採れないって泣いたよね。イノリの目に映る星が欲しいって泣いて、イノリを困らせた気がする」


「お前は今でも泣き虫だよ。その上、甘ったれで拗ねんぼですぐ駄々こねるし、迷子になるしで面倒くせぇ奴だ」


「うるさいなぁ!!…でもイノリはいつも泣きやませてくれた。同い年であって大人じゃないのに、イノリは嫌な顔1つしないでいつも優しくしてくれたよね」


「…ガキってのはな、大人なんかよりもずっと大切なものが何かわかってんだよ。守らねばならないものは必死で守る。

俺にとって泣き虫なお前は、そういう存在だった」


「じゃあ私が泣き虫じゃなかったらそばにいてくれなかったの?」


「…かもな。お前、泣き虫でよかったな。…いや、俺が泣き虫フェチでよかったなの方が正しいか」



ゲラゲラと笑うイノリを突き飛ばすと、キヨは立ち上がって歩き出す。




「何怒ってんだ?」

「知らない!!ついてこないで!!」

「…ふっ。いじけんぼさんになりやがった」



イノリはコートを広げると、ズカズカと足を鳴らして前を歩くキヨを包み込んだ。




「怒ってるんだからね!!泣き虫じゃなきゃそばにいなかったなんて酷い!!」


「嘘に決まってんだろ、バカ。泣き虫フェチな奴なんているかよ、面倒くせぇ。お前だからそばにいるんだよ」


「本当に?」


「あぁ。お前ほど俺を…」


「俺を?」


「…何でもない」




イノリは首を振るとキヨの額に優しくキスをした。

額に馴染む熱。





人は時間と共に変わっていく。

どんなに仲の良かった友人でも、会わなくなるのが自然のこと。



ずっと同じ思い出を共有出来る人なんていない。




そんな寂しく切ない世界でも、離れる事なくそばにいてくれる人がいる。



キヨにとって物心ついた頃から今日までを、いつもそばにいてくれたイノリこそが、まさにその存在。