続・祈りのいらない世界で

その頃、喫煙席に座る男子達と群がっているイノリとケン。



「川鳥、お前はまだ彼女か嫁さんいねぇのかよ」

「いないねぇ。キヨはイノリの、カンナはカゼのものになっちゃったからね」


「まぁお前は高校の時からそんな存在だったもんな。おまけというか」


「お前久々に会うダチに失礼な事言うな!!」



何年経ってもいじられキャラのケン。


お酒を呑みながらギャーギャー騒ぐケンを横目にイノリが久しぶりのメンツを眺めていると、イノリの横に1人の男が座った。




「久しぶりだな、北山」

「…ん?誰だっけ?」

「そのセリフも懐かしいな。鈴木だよ。清田さんの事が好きだった鈴木」



イノリは一瞬考えを巡らせると、高校最後の文化祭を思い出した。




「…あぁ、思い出した。久しぶり」

「北山、よかったな。清田さんと結婚出来て」

「まぁ予想外っつーか、予定外の結婚だったけどな」

「今、清田さん妊娠してんだってな。確かに清田さん、子供っぽさが抜けた気がする」

「上京してから色々あったからな。あいつは誰もが経験しないような事を乗り越えてきたんだ。大人っぽくもなるさ」



イノリは女子達と楽しそうに笑っているキヨを見つめた。



イノリの真実
イノリとの別れ
自殺行為
カゼとの妊娠
カゼの死


上京してから降りかかった事は幸せな事ばかりじゃなかった。


でもそれを乗り越えて今この場所にいる。




フウがいるから
妊娠しているから

だから大人っぽくなったのではない。



あの頃、キヨに訪れた悲惨な出来事が彼女を成長させたのだとイノリは思った。