続・祈りのいらない世界で

もしかしたら、キヨが前に

『カゼがいない悲しみを味わいたくない』


と言ったから、イノリはそう言ったのかもしれない。




そう思ったキヨは、イノリの優しい嘘がキヨだけではなく、クラスメイト達も悲しませなくて済んだのだと知った。




同窓会の開始時刻になり、何故かケンが主催者として乾杯の掛け声をかける。


懐かしい顔ぶれ達が掲げるグラスは、様々な音を鳴らしながら重なった。




「まだ美月達は一緒にいるんだね。本当に仲良しで羨ましいよ。私なんて卒業してから誰とも連絡取ってなかったよ」


「私もイノリ達以外とは連絡取ってなかったよ」


「そうなっちゃうよね。でも本当にびっくりした。美月がお母さんになるなんて。あんなに北山くんにベッタリで泣いてるか笑ってるかの美月がお母さんなんてね。
…当たり前か、もう卒業してから６年だもんね。みんな家庭を持つようになるよね」


「カンナとカゼの間には２歳になる子供もいるんだよ」


「え!?かんなと倉木くん、結婚してたの!?」



クラスメイトの言葉にどう答えればいいのかキヨが迷っていると、隣にいたカンナがゆっくり頷いた。



「うん。大学を卒業する前に私とカゼ結婚したの」

「カンナ…」



少し複雑な表情でカンナを見つめるキヨに、カンナは優しく微笑んだ。




「やっぱり倉木くんはかんなのものかぁ〜。わかってた事だけどショック」

「それよりさ、北山くん凄く大人っぽくなったね。雰囲気が優しくなった気がする。やっぱりお父さんになるからなのかな？」

「元から美月のパパみたいだったけどね」



久しぶりにカンナ以外の女の子達と色んな話が出来て、キヨは心が穏やかになっていた。