続・祈りのいらない世界で

ケンの部屋からは小さく音楽が聴こえる。



「…ケン、入るよ」



キヨが中に入ると、床に座ってヘッドフォンを付け、音楽を聴いているケンの背中が目に映った。



キヨが肩をつつくと、ケンは振り向く。




「キヨ、どうした?…もしかしてうるさかった?」


「ううん、違うよ。…カンナとケンに何があったのかなって思ってね」


「…あぁ、何かカンナがシングルマザーになるって言い出したから、ワケを聞いてただけだよ。…何も教えてくれなかったけど」



ケンはコンポの電源を切ると、キヨに体を向けた。




「…カンナはね、ケンに申し訳ないと思ってるんだよ。自分のせいでケンを犠牲にしてるってね」


「そんな何で今更…。俺は自分を犠牲にしているつもりなんかないよ?…カンナにはカゼだけを好きでいてもらいたいし、フウは実の息子じゃないけど可愛いと思うのは嘘じゃないし。カゼが残した大切な家族だからね」



ニッコリ微笑むケンを見たキヨはケンの隣りに座った。




「…カンナはケンを好きになってるよ。ケンが好きだから…今苦しんでるの」

「え?」

「恐いって言ってた。ケンを好きだと認めちゃったら、カゼを忘れてしまうんじゃないかって。だからカンナはケンから離れようとしてるの」



キヨの言葉を聞いたケンは、眉間にシワを寄せたまま一点を見つめている。




「ケン?」


「…俺もカンナの事好きだけど、そういうんじゃない。…俺は今でもキヨが好きだよ。もう完璧にイノリのものだけど」


「ありがとうケン。でも私はケンに何も答えてあげられない。ケンを傷つけるだけだよ。…ケンもちゃんと幸せになって。ケンが幸せじゃないのは嫌だよ」


「…キヨ」




切なそうな瞳を向けるケンの手を両手で包みながら、キヨは言葉を続ける。