続・祈りのいらない世界で

「なんで?私、カゼが好きなのに…カゼだけを愛し続けると誓ったのに!!どうして…」


「カンナ。生きている人間は過去を思い出にしてしまうし、思い出に縋って生きてはいけない。
でもそれはカンナが冷酷だからとか、カゼへの愛が薄れたからじゃない。カンナがちゃんと前に向かって歩き出せてる証拠だよ?」


「私、恐いの。他の誰かを好きになったらカゼを忘れてしまうんじゃないかって。だからケンと離れたいのよ!!
…忘れたくない。カゼを思い出になんかしたくないよ!!!!」



カンナが頭を押さえながら顔を振ると、キヨは優しく微笑んだ。




「忘れるワケないよ。私はイノリに恋をしてるけど、カゼを忘れた日なんかない。だったらカゼを愛してるカンナが忘れるワケがないじゃない」


「っ…キヨ…」


「ケンが私の名前ばかり呼ぶのは、ただ癖になっちゃってるだけだと思う。だから大丈夫だよ。…私はカンナが大好きだから、カンナが幸せが嬉しいよ。悲しむカンナは見たくない」



キヨがカンナに寄り添うと、カンナはキツくキヨを抱きしめた。






深く刻まれた心の傷と悲しみは時間と共に薄れていく。

時間が優しく、時に残酷に癒してしまう。




どんなに想っても
どんなに愛していても

もういない存在に縋って人は生きてはいけない。



だって人間は

こんなに弱くて
こんなに脆くて
こんなにも、寂しがり屋だから…




カンナは何も悪くない。


最愛の人がいなくなっても、こうして母親として頑張っているだけで十分凄いよ。



私ならイノリが死んでしまったら、絶対後を追ってしまうから…。





キヨはカンナの部屋を出ると、ケンの部屋に足を運んだ。