続・祈りのいらない世界で

「あらキヨ。イノリと来なかったの?」

「…イノリは来ないよ」



俯くキヨを見ながら、カンナはケーキを切り分けた。





その頃、カンナの家に向かおうと家を出たカゼは

目を疑いたくなるような光景を目の当たりにした。




「………イノリと華月さん?」



カゼが見たのはイノリと華月がイノリの家に入って行く所だった。


異様な組み合わせに、何となくカゼは2人の関係を察した。



イノリの事だから華月と付き合っているワケではない。
華月は男にだらしないと聞いている。


華月はキヨの姉。



華月とキヨは外見はまるで似てないが、姉妹だけあって華月からキヨを感じ取れる物はあるはず。




「………イノリ、我慢出来なかったんだね」



カゼは悲しそうに呟くと、足早にカンナの家へ向かった。





「祈、どうして私の名前を呼んでくれないの?」



事を終えた華月は、自分に背を向けて寝そべっているイノリに話し掛けた。




「…ただ呼ばないだけだ」


「嘘つき。祈はヤってる時、キヨって何度も呟いているもの。…そんなに美月が好き?私に失礼よ」


「華月が言ったんだろ。私を美月として見ていいから抱けって。俺は華月を抱いてるつもりはない」




イノリはベッドから起き上がると服を着た。

大きなイノリの背中を華月は睨み付ける。




「そんなに好きなら美月本人を抱けばいいじゃない。美月も祈の事が好きなんだから」


「何度も言ってんだろ。…あいつだけは簡単に抱く対象に見ないって」


「…そんなに大切?美月の何がそんなにいいっていうのよ。…私を愛してよ、祈。私を美月みたいに愛して」



華月がイノリに抱き付くとイノリは溜め息をついた。





「こんな関係になった女を愛せると思うか?…だから言っただろ。大切にされて愛されたいのなら、まずはお前が変われってな」



イノリが冷たい眼差しで華月を見下ろすと、華月はイノリの頬を叩いて部屋から出て行った。




イノリが華月と体を重ねたのはこの日が最後だった。