続・祈りのいらない世界で

「美月、忘れ物だよ……ってどうしたの?みんなして」

「哲兄!キヨがお腹痛いって言ってて…」

「お腹?…美月、どうした?どう痛いんだ?胃か?下腹か?」



哲也がキヨの顔を覗くと、キヨは涙を流しながら首を振った。




「…俺が突き飛ばしたからだ。地面に強く倒れたからキヨは…」

「違うよ、イノリ。美月は初潮になっただけだよ。…男にはわからないだろうけど」

「初潮って何?」

「初めての月経の事よ。もう中学生だもの、キヨも大人になったのよ」



ケンは月経の意味もわからないのか首を傾げている。





「美月、家に入ろう。親御さんに知らせなきゃ」



哲也がキヨを抱き上げると、イノリは哲也の肩を掴んだ。

イノリは哲也を睨み付けている。




「キヨは俺が運ぶ。哲兄はキヨに触るな。…それと気安く美月って呼ぶな」

「祈、そのセリフは美月を大切に出来るようになってから言え。今の祈はただの…ガキだ」



哲也はそう言うとキヨを家に運んで行った。

悔しそうに拳を握るイノリを見つめるカンナ達。




「………哲兄さんは医者目指してるだけあって、しっかりしてるね」


「哲兄は優しいし頭いいし頼りになるしね。あれで外見がカゼの兄ちゃんみたいだったら完璧だね」


「………俺の兄貴は冷たいよ?勉強は出来ても運動はまるで駄目だし。兄貴って感じはしないな」


「そうなの?カゼの兄ちゃんって完全無欠ってイメージなんだけど。…じゃあやっぱり哲兄みたいな兄ちゃん欲しかったなぁ」



カンナは空気の読めないカゼとケンの頭を叩くとイノリを見た。




「イノリ。無理もないわよ。哲兄はもう23よ?13歳の私達に比べたら大人に決まってるわ」


「…いや…俺はガキだ。自分の感情を優先していつもキヨを傷付ける」


「でもそれでもキヨはイノリが好きよ。イノリは哲兄にキヨを取られて嫌だっただけでしょ?…自分にだけ尻尾を振っていた愛犬が、他人に尻尾を振ったら誰だって嫌よ」



キヨを犬に例えるカンナ。