続・祈りのいらない世界で

そんな事を思いながらキヨが歩いていると、後ろからベルを鳴らす音が聞こえた。


後ろを振り向くとそこにはイノリ。



「乗れ」



イノリはキヨの前に自転車を止めると、顎で荷台を指した。




「…乗らない」

「いいから乗れ!!早く乗らねぇとチャリで引くぞ」



イノリの言葉にキヨは渋々荷台に座った。



イノリが自転車を走らせた場所は、土手。


イノリは自転車から降りると、コンビニの袋をキヨに突き出した。




「…食え」



キヨが袋の中を覗くと、中には中華まんがいっぱい入っていた。




「嫌味のつもり?」

「いいから食べろ。ほら」

「ふぉんふぁひふふぃふぃふぁふぃふぁふぁい!!(そんなに口に入らない)」



イノリに中華まんを口に押し込まれたキヨ。


イノリはハムスターの頬袋のようにパンパンになっているキヨの顔を見て笑う。




「なぁキヨ。無くならないものなんてないんだと俺は思うよ」



イノリはキヨの口の周りを指で拭いながら話し始めた。




「みんないつかは無くなるかもしれないんだ。店も場所も人も。…でもな、絶対無くならないものもある」

「絶対無くならないもの?」



キヨがイノリを見ると、イノリはキヨの額に額をくっつけた。




「…お前の隣りにいる俺」



優しく微笑むイノリを見て、キヨは涙が込み上げてきた。




「お前が俺を必要としなくなるまで、俺は隣りにいるよ」




イノリはいつもそう。


『お前を泣き止ませられる奴が出来るまでは』


とか


『お前が俺を必要としなくなるまで』


とか、いつもそんな言葉ばかり。







その隔たりを感じる言葉がいつもは悲しいのに、今日は嬉しかった…。