続・祈りのいらない世界で

5人はジャンケンをすると、勝ったイノリの意見に従う事にした。


と言っても、男3人がバカ笑いしながらバスケットゴールにボールを投げているだけ。



「キヨ、そんなに見つめてたらイノリにバレちゃうわよ」



飲み物を買いに行ったカンナはコートの端に座っているキヨの横に腰を降ろすと、キヨに缶を渡した。




「大丈夫だよ。イノリは私がイノリを恋愛対象で見てるなんてこれっぽっちも思ってないから」


「イノリは気付かないフリをしてるだけだと思うな」


「気付かないフリ?なんで?」



カンナはイノリと華月の関係を知っているから、イノリがキヨと心の距離を置いている事に気付いていた。



華月の子どもはイノリとの子どもではない事を、この時のカンナは知らない。




「…手に入れたら失うしか道が無くなるから。この世界は物語みたいに幸せな結末を迎えたら終わりじゃないから…」



好きな人と両思いになってそれでハッピーエンドで終わるのはフィクションの物語。


ノンフィクションの世界では、生きていればハッピーエンドの後も話は続いていく。



幸せを掴んだ先に生まれる感情は沢山ある。



幸せな気持ちと恐怖心。

手に入れたら待っているのは失うこと。




人は幸せな時ほど不幸を恐れる。

人は大切な人ほど、失うことを恐れる。




「…って、いつだったかカゼが言ってたのよ。イノリはそれだって」


「カゼってさ、無口なクセに核心を突く事言うよね」


「普段あまり話さないから説得力があるんじゃない?」



キヨとカンナは楽しそうにバスケをするイノリとカゼを見つめた。