続・祈りのいらない世界で

キヨが首を傾げながらイノリを見ると、イノリは神父が差し出す結婚指輪をキヨの薬指に嵌めた。


キヨもイノリの薬指に指輪を嵌める。




「では誓いのキスを」



神父の言葉に促されたイノリは、ヒールを履いているにも関わらず自分よりもかなり小さいキヨのベールを捲った。




「…美月」

「ん?何?」



キヨがイノリの顔を見つめると、イノリは照れくさそうに呟いた。




「…俺はお前の為に世界を失う事があっても、世界の為にお前を失いたくない」



バイロンという人が唱えたこの世で一番の殺し文句。


先程神父がキヨに告げるといいと、イノリに囁いたのはこの言葉だった。





「美月、お前は俺の全て…世界だ」



涙を流すキヨに笑いながら、イノリは誓いのキスをキヨと交わした。




誓約を終え、神父から祈祷され結婚証明書に署名した2人は神父と手を重ねる。




「愛はいつまでも絶える事はありません。2人の物語は、今日で終わり、また新たに始まります」


「俺は今までの23年間も美月と過ごしてきましたから、これからもそれが続くだけです」



優しく祝詞を述べる神父に、想いを告げるイノリ。




「あなた達は神に愛された2人です。これからもあなた達に沢山の試練、悲しみ、苦しみを与え、それ以上の幸福を捧げるでしょう。

今ここに2人が夫婦になった事を約束します」




キヨとイノリが後ろを振り向くと、最前列に2人で座っているカンナとケンがキヨとイノリの両親よりも涙を流している姿が見えた。



カンナの横の席には、ステンドグラスの窓から青い光だけが降り注いでいる。




青…

カゼが好きだった色。



まるでそこにカゼが座っているかのように優しい光だった。




「ちゃんと見ててくれたんだね」





その後、2人は式場の端に作られた小さなチャペルに移動すると


参列者から色とりどりの花びらを撒かれ祝福された。