続・祈りのいらない世界で

「キヨは優し過ぎるんだね。俺達に心配掛けまいと強がるんだろ?…いいんだよ、強がらないで。こういう時頼って貰わなきゃ俺達がいる意味がないじゃん」



キヨの目には優しいケンが映る。




「…寂しいなら縋ればいい。悲しければ泣けばいい。でも1人で抱え込むのはナシだよ?…今日は1日、よく頑張ったね」


「…こんな時にそんな事言わないで。ケンのバカ!ありがとうっ…うわぁぁぁんっ!!」




優しくしてくれる人がいる。
気持ちを理解してくれる人がいる。



それは当たり前の事じゃない。

“特別”な事なんだと、ちゃんと覚えておこう。




そうじゃないと、私は特別や幸せを当たり前だと思い込んで欲張りになっていく。



頭の弱いバカな私だけどそれだけは忘れないでいよう。





キヨが泣き止むと2人は河原の草むらで唄った。



元気にしてくれたのは歌じゃない、ケンだった。


ありがとう、ケン。





キヨはケンの隣りで手を叩きながら唄っていた。



「ふぅ。唄った唄った。楽しかったね、ケン」

「うん!キヨが少しでも元気になったならよかった。日も暮れてきたし、そろそろ帰ろっか」

「うん。ありがとう、ケン」

「いいって事よ。俺だってキヨの力になれるんだってわかったから嬉しいし」



2人は顔を見せ合わせて笑うと自転車に乗り家を目指した。



田んぼ道を走ると蛙たちの合唱に包まれる。





ケンがペダルを漕ぐ音と風の音だけを聞いていたキヨ。


すると遠くから小さく聞き慣れた歌声が聞こえてきた。



「♪〜泣き虫で甘ったれなキヨはすぐに星に祈る〜そんなキヨを泣き止ませられるのは俺だけ〜♪」



キヨが声のする方を見ると、黒い癖っ毛を風に揺らしながら歩いている大きな背中が見えた。



大好きな後ろ姿が歩いている。




その姿を見たキヨは荷台から飛び降りた。