続・祈りのいらない世界で

ケンは優しく微笑むと、河原の前で自転車を停めた。



「ケン?」

「ちょっと寄り道♪キヨと2人で帰れる貴重な時間だからね」



ケンはキヨを荷台から降ろすと2人は並んで草むらに座った。


夕日に照らされた川は、静かにオレンジ色の水を流している。




暫く無言のまま川を眺めているとケンが歌い始めた。




「♪〜泣き虫で甘ったれなキヨはすぐに星に祈る〜そんなキヨを泣き止ます方法は〜デコにチューする事だ〜♪」



ケンが唄う歌は、イノリがよくキヨが泣くと口ずさむ歌だった。



イノリと違い、歌が上手いケン。
ケンの歌声は元気をくれる。

だけど心には響いてこない。




イノリがおんぶをしながら歌ってくれると、悲しい事も辛い事も寂しい気持ちも全部、吹き飛ぶ気がするのに。



まるで小さい子どもが親に歌って貰う子守唄に安らぎを感じるように。




「…イノリは作詞作曲の才能ないよね。俺ならもっといい曲作るのに。…まぁキヨへの想いが不器用ながらに込められてるけど」



ケンは俯いているキヨの頭をグリグリと撫で回した。




「キヨ、元気が出るように一緒に歌おっか!5粒のあんこ♪」

「…なんでその歌なの」

「この歌を唄ってる時のキヨはいつも笑顔だからだよ」

「…っ!!ケンっ」



キヨは優しい笑みを浮かべているケンに抱きついた。





カンナもカゼもケンも優しすぎる。


そんな優しい人がいてくれるから私は甘ったれになったのだろう。



幸せを当たり前に思っているからこんなに弱いんだ。



もっと強くならなきゃ駄目だ。

きっとこの脆さはいつか誰かを傷付ける。





キヨがそんな事を思っていると、ケンが優しく呟いた。