続・祈りのいらない世界で

「お疲れ、イノリ。初めての試合にしては頑張ったじゃない」

「イノリにしてはカッコ良かったぞ」

「………うん。惚れちゃった」

「カゼに惚れられたって嬉しかねぇよ!!」



控え室から出てきたイノリに絡みつくカンナとケンとカゼ。




「イノリお疲れ様♪」



キヨがイノリに駆け寄ると、イノリはキヨを睨んで控え室へと戻ってしまった。




「あれ、イノリ忘れ物かしら?」

「………イノリの事だから拗ねてるんだよ。俺ら先にチャリ置き場にいるからキヨ、イノリ連れてきて」



カゼはカンナとケンを連れて自転車置き場へと向かった。




「拗ねてる?なんで?負けちゃったから?」



キヨはカゼの言葉に首を傾げながら控え室に入った。


控え室にはイノリしかおらず、イノリは隅でうずくまっていた。




「イノリ?」

「…触んな。このバカ女」



キヨがイノリの腕を掴むとイノリは嫌々と頭を振った。




「どうせバカ女よ。それよりどうしたの?何拗ねてるのよ」

「拗ねてなんかねぇよ!腹が立ってるだけだ」



イノリは立ち上がると冷めた眼差しでキヨを見た。


冷ややかなイノリの瞳にキヨは少し怯える。




「…お前、なんで俺以外の男見たんだよ!?見るなって言っただろ!?ダンクまでしっかり見やがって。……嘘つきは嫌いだ。とっとと出ていけ!目障りなんだよ!!」



イノリがロッカーを強く殴りつけると、控え室にガァァン!!っと大きな音が響き渡る。




「…だってイノリ見てたら…イノリがゴールに走ったから…だから見えちゃっただけで…。ごめんなさいっ…」



イノリが弱々しく話すキヨを見るとキヨは震えながら泣いていた。


自分の勝手な感情でキヨを怯えさせた事にイノリは酷く後悔した。




「…泣くな。悪かった。お前は約束を破ったりしねぇってわかってんのに。俺はバカだな…」


「私ね、イノリがダンクしてくれないとどのシュートがダンクかわからない。だから今日は何にも見てないよ」



キヨが真面目な顔でそんな事を言うものだから、イノリは笑ってしまった。