続・祈りのいらない世界で

イノリの目の前まで歩いたキヨと父は、イノリに礼をすると父が優しくキヨの手を取り、イノリが差し出す手に乗せた。



父から新郎に娘を渡す瞬間。



イノリが昨夜「まだ美月は両親のものだ」と言った意味を理解したキヨ。




今やっと、キヨは本当にイノリのものになった。





2人が神父のいる祭壇に登ると、参列者が賛美歌を歌い始めた。



歌が終わると神父は2人の顔を見る。


外国人神父は優しく微笑むと、片言の日本語で話し始めた。




「北山 祈さん。あなたは美月さんを妻とし、病める時も健やかなる時も常に妻を敬い、慰め、支え、死が2人を分かつ時まで命が続く限り、愛し続ける事を誓いますか?」


「誓います」



真っすぐ神父を見つめて誓いを交わしたイノリの服をキヨはチョイチョイと引っ張る。




「ねっねっ。こういう時って名前じゃなくて“汝”って言うんじゃないの?」

「お前、式中に無駄話をするな」

「だって気になったんだもん」



誓約中にも関わらず、ひそひそと話す2人を見て親族達はクスクスと笑う。




「清田 美月さん」

「うあっ!!はいっ!!」



考え事をしてる中、神父に話し掛けられ声が裏返るキヨに微笑む神父。




「あなたは祈さんを夫とし、病める時も健やかなる時も常に夫を敬い、慰め、支え、死が2人を分かつ時まで命が続く限り、愛し続ける事を誓いますか?」


「もちろん誓います」


「…もちろんは余計だ」



神聖な場所で神聖な儀式の最中だというのに、いつものように騒がしい2人。


そんな2人を見た神父は誓いのキスの前にイノリに話し掛けた。




「祈さん、耳を貸して頂けますか?」

「え?…あぁ、はい」



イノリの耳元で何かを囁く神父。



神父がイノリに何かを告げ終えると、イノリは真っ赤になってキヨと向かい合った。