「好きな人」っていうから、てっきり同じ年くらいの女の子だと思ってた。

なのに、あれは陽成くんのママでしょ?

それって、不倫になっちゃうの?


どう見ても正しい恋愛じゃないし、隠しておくしかない。

彼がそんな恋を選ぶなんて、まだ信じられない。


でも、彼が朱美さんを見る目はとても優しかった。

どう見ても、遊びで付き合ってるようには見えなかった。

ショックがこんなに大きいのは、相手が生徒の母親だからだけじゃない。

あんなに幸せそうな顔を見たのは、初めてだったからかもしれない。


一方、昨日、駅まで追いかけて来た女の子を見る目は、普段の彼からは想像がつかないくらい、冷ややかだった。

もちろん、あれほどこじれるまでには何か特別な事情があったんだろうけど、キツくて険しい表情は彼じゃないみたいだったから、驚いちゃったし、ちょっと怖くなった。


昨日はそれでも、自分の気持ちに正直に、彼への思いを丸ごと認めようとした。

だけど、さすがに今日は本気で迷い始めた。


だって、私には未だに彼の本当の顔がわからない。

普段の軽い感じも、ノリの良さも、深い思いやりも、優しさに溢れた目も、全部好きだけど、どれも信じられない。


だから、やっぱり、私なんかの手に負えない。

いくら頑張っても、釣り合わない。

私はきっと、彼に上手く付いて行くことができない。


無理をしても、また傷つくだけ。

だったら、今のポジションでいい。

ただの友達より、ほんの少しだけ近いところで、彼の笑顔を見られれば。


そのうち、諦めが付く日だって来るはずだ。

手が届かない人だって、気付いたんだし。


だから、それまで待とう。

彼を好きな気持ちが治まって行くまで、ゆっくりと......