里菜ちゃんは、頬の横で手のひらを小さくヒラヒラすると、長い髪をなびかせながら、本館に入って行った。

ヨガやダンス、フィットネス系のクラスが行われるスタジオは、本館の一番奥にある。

フィットネスは常に進化しているから、クラスの数も種類も多い。

フロントとして、あまり馴染みのない種目もきちんと説明できるよう、後で、もう一度、確認しておこう。


それはさておき、二日目にして、同じ年の友達ができたのは心強い。

しかも、さっきの様子から察するに、里菜ちゃんは彼と仲が良いみたいだし、アシスタントを務める彼氏からも、何かしら情報を掴めそうな気がする。


何しろ、今の状態では彼がどういう人なのかよくわからないし、狐につままれたような気分だ。

さっきは呆気に取られて、ただ質問に答えるみたいな会話しかできなかったけど、家も近いことだし、一緒に帰ろうって誘われたんだから、探るチャンスはいくらでもあるはず。

このままでは、自分の気持ちに納得が行かないから、早く仲良くなって、彼のことを、もっと知りたい。


だって、私、彼のことを好きなんだよね.......?


だったら、チャラいとか、軽いとか、そんなのは関係ない.......

とは思うんだけど、実際に、ずっとそばにいたら、やっぱり考えは変わるのかな。

「彼氏っていうタイプじゃない」って、断言されちゃっただけに、心は揺れる。


昨日、感じたトキメキを信じる?

それとも、信じない?

「恋に落ちた」と思ったのに、早速、すぐには答えを出せない難題にぶち当たるなんて。


神様がくれたラッキーは、どうやら、この日を境に、私の心を悩ます大きな葛藤に生まれ変わったみたいだ.......