「でも、どうして瀬ノ内君が……」


「これ、伊織が俺に貸してくれたんだ。中学の時に。」


「えっ…」


「中2の秋、雨の日曜日。覚えてるか?」


中学2年の秋…。


「あ……」


頭の中にパッと光景が浮かんだ。


そうだ、思い出した…。


確か、あれは…10月下旬の日曜日。


午後から天気が急に崩れて、雨だった日。


私、親戚の女の子の家に遊びに行った帰りだったんだっけ…。


肌寒い夕方、電車で帰るために駅に向かって、銀杏並木の道を傘をさして歩いていた時。


数メートル前方の空き店舗の軒先で、灰色の空を見上げている一人の男の子が目に映った。


グレーのパーカーにジーンズ姿。


パーカーのフードを被っていて、肩や腕の辺りが濡れていた。


途中で雨に降られて雨宿りしてるのかな…。


そう思った私は、ツカツカと男の子に近付くと、バッグに入れていた折りたたみ傘と、ハンカチを、彼に突きつけたんだ…。