俺は、お前がいいんだよ。


あの人が5組ということは、この人も…。


ゆっくりと男の子に視線を移すと、フワッと優しい笑みを向けられた。


「俺、5組の瀬ノ内 陽希。アンタは?」


「ど、どうして名前なんか…」


「お互い、名前も知らない同士だろ?だから、とりあえず…自己紹介。」


ひょっとして、昨日…ひねくれた言葉を返してきたヤツの名前を記憶しておこうとか、そういう理由だったりして…。


真意は分からないけど、一応…500円玉を拾ってくれた人だし、名乗れと言ってるから、言っておいた方が良さそう…。


「え、えっと……伊織 由依です。」


「何組?」


「……1組です。」


クラスまで聞く必要があるのかと思いつつ、渋々…答えた。


「1組か…。っていうか、伊織 由依って、すごく綺麗な名前だな。」


「は!?べっ、別に普通だし。」


な、何を言ってるの…この人っ!!


今まで、そんな風に言われたことがない私は、動揺してしまう。


不自然なくらい視線を泳がせていると、瀬ノ内君は私の腕を掴んだまま、耳元に顔を近付けてきた。