透は資料を見ながらため息を吐いていた。あの時と同じように。
「どうも年齢層がきになるんだ。」
本当に透は相も変わらずなのね。それでいて専務なのだから・・・
「透はお堅いのよ。透のお母様見てごらんなさいよ。 私とそれほど変わらない恰好のはずよ。」
「みっともないだろ。年相応の服装というものがあるんだよ。」
透の意見ももっともではあるけれど、あまりにも古い考えだ。
「そうじゃないのよ。」
「何がだよ。」
「女はね、好きな人の前ではいくつになっても綺麗でいたいものなの。」
そうよ、だから、女はいくつになってもお洒落をしていたいし、素敵な服を身に纏いたいと思うの。
綺麗な装いをして好きな人にときめいてもらいたい。
私だって、透には豪華さより魅せる服を着て心を弾ませて欲しいわ。
「それじゃあ加奈子は裸でいるんだ。」
「それは透の好きな恰好でしょ?」
「女は何も着ていないのが一番だよ。」
呆れてしまうわ。
今は仕事の話をしているのにこんな低俗な会話。
思わず透を睨みつけてしまった。
「分かってるよ。俺だって加奈子が綺麗に着飾っているほうがいい。そんな君が好きだよ。」
今、さりげなく告白している?
とても恥ずかしい気持ちになるのだけど。平然としていられる透が信じられない。
「透」
「加奈子、もう少し君の意見を聞きたい。」
透の真っ直ぐな目が私の心を捉えて離さない。
でも、今は恋心ではなく仕事の話でお互いの気持ちが一つの方向へ向いているだけ。
だから、意識しなくてもいい。
今の透は安全なのだから。
「やっぱりこの企画は私がいないとダメみたいね。」
「かと言って蟹江君を外せないし。」
「ねえ、いいアイデア思いついたんだけど。私に任せてくれない?」
企画そのものは商品管理部門全員に関係している。
専務である透を交えた会議は吉富さんと蟹江さんだけだが、他の社員が関与していないわけではない。
だったら せっかくだからみんなに参加してもらってもっと正確な数字を出せばいいのだ。



