これ以上何も話し合う余地は私達にはないのだから、もうこれ以上顔を会わせていたくないから、
「失礼します」
私は深々と頭を下げ自分のデスクへと戻った。
「社長がお呼びだ。今すぐ社長室へ来なさい。」
それは専務としての命令ですか? と、言いたい。
私は透なんか怖くない。その父親である社長も怖くないわ。
まっすぐ透の目を見て、私は自分の意思を決して曲げることをしないと訴えた。
「何故ですか?」
私の目を見て困惑気味なのは透の方だ。
疾しいことがあるから目が泳いでいるんだ。
「とにかく社長室へ。言われた通りにすればいい。」
透も少しイラついている様子。
他の社員がいるのに冷静でいられないようだ。
「お断りします」
「・・・・勝手にしろ」
「はい、勝手にします。」
透は結局何がしたいのか分からない。
始末書だって透には関係ないのだから放置すればいいのよ。
透のイラつきも分かるけど、私も相当にイライラしている。
退職届は受理されたけれど、これからの生活の不安が大きいのだから。
芳樹を預かってくれる保育施設、シングルマザーを雇ってくれる雇用主、
そんな都合の良い会社がいったいどこにあるっていうの?!
私はイライラを通り越して鬼の形相になってしまいそうだ。
そんな態度が行動に出てしまうのは私の欠点なのだろうけど、どうも抑えが利かない。
今日は自分の机の整理をしようとデスクの中の引出しを開けるのだけどどうしても乱暴になってしまう。
苛立ちが私の態度にでてしまう。
「ちょっと、ちょっと、始末書を社長に送り付けたって不味いわよ!」
「蟹江、不味いどころじゃないよ!」
「蟹江、吉富! この田中を何とかできないのか? このままじゃ商品管理部門が危なくなるぞ。」
「部長! 我々の首はどうなるんですか?!」
多分、蟹江さんと吉富さんは私の身を案じてくれているんだと思う。
シングルマザーに理解的な部長と課長は自分らの立場を案じているところなのだと思う。



