「……理由は?」



理由。


今度はちゃんと言わないといけない。



どんなに辛くても、どんなに悲しくても、


これは、自分が決めたことなんだから。



十夜に謝らずに逃げるんだ。


これぐらい耐えなきゃいけない。




十分過ぎる沈黙の後、あたしは“離れる理由”を告げようと口を開いた。



「あたし、海───」


「アイツか?」




「………え?」




“海外に行く”と言おうとした時、またもや十夜に遮られて。


十夜の口から出た言葉に眉が引き寄った。



アイツって、誰の事……?



“理由”を伝えるよりも十夜の言った言葉の方が気になって、続きが出てこない。




「……アイツって?」


「勉強した日の朝、一緒に居た男」



勉強した日の朝に一緒に居た男?


頭の中で思い出そうとするけど、全く思い出せない。



「暴走があるって言った日の朝、バイクで迎えに行った時。そん時マンションの前で一緒に居た奴」


「……っ」




それってまさか……。


誰の事を言っているのかやっと分かったあたしは、思わず一歩後ずさった。



……もしかして、あの時十夜に見られてたの?


貴兄と一緒に居る所を。