生ぬるかった風も、自転車に乗れば心地よい海風に変わった。
なだらかな坂を下って、前にわたしと高瀬くんが別れた場所まですぐに来たけれど、自転車は止まることなくまっすぐ進んだ。
「高瀬くん! ここでいいよ!」
「近くまで送るから、案内して」
止まろうとしない自転車とそんな言葉に、「わかった!」と風の音に負けないくらいの大きな声で返した。
「あっ、ここだよ」
そう言うと、自転車は大きなブレーキ音を出して3階建てのアパートの前で止まった。
ここの2階の一番奥の部屋が、わたしとお母さんが住んでるところ。
隣の部屋が、いまは入院しているおばあちゃん家なんだ。
「高瀬くん、送ってくれてありがとう」
「うん。また明日」
シルバー自転車が太陽に反射してキラキラまぶしく輝く。
わたしが「ばいばい」と言うと、高瀬くんはそれに乗って来た道を戻って行った。
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