「たしかに表情がぜんぜんちがう」

「本当?」

「うん。明るくなった」

「あはは、そうかなあ……」



高瀬くんの言葉に顔を上げると、高瀬くんが温かい目をしてわたしを見てそう言うから、恥ずかしくなって顔をうつむかせた。


周りは雨の音とか荒れた波の音でうるさいはずなのに、それ以上に胸のドキドキのほうがうるさくて。
周りの音なんて耳に入ってこない。



そのあともそんなたわいのない話をしているうちに、顔を上げればわたしの住むアパートが目の前に見えていた。

なんでこういうときだけ、家に着くのが早いんだろう。


このふたりだけの空間は特別で、きっとこれから先はもう二度と作られない。
それが寂しくなって、歩く足を止めた。



「吉井さん? どうした?」

「……ううん、なんでもない!」



不思議そうにわたしの顔を覗き込んできた高瀬くんに笑顔を見せながらそう言った。