「ああ、そうかよ…」


「ひか…」


「では、お嬢様、私は夕食の準備をしてまいります」

執事モードにいきなり変わった光は部屋を出て行った。

私…最低じゃん。

なにかしてしまったのかって、心配してくれてる光を突き放して。

理由を言えるわけでもないのに、光が悪いみたいな方にもっていって…


「ほんと…最低だ……」

私は部屋着に着替え、ベッドに寝転び、いつのまにか眠っていた。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「お嬢様」


「ん…」


「起きてください」


「…早苗、さん?」


「お目覚めになりましたか?夕食のご用意が整いましたよ」


「あり、がとう、ございます」


「光さんから、呼んでくるよう言われました」

光…


「…わかりました。ありがとうございます」


「いえ、行きましょうか」


「はい」

こうして、私はダイニングに向かった。

あれ?

光は?


「早苗さん」


「どうかなさいました?」


「光は…」


「いませんね…キッチンかもしれません見てきますね」


「…お願いします」

早苗さんはキッチンに向かった。


「お嬢様」


「いました?光」


「いいえ、でも夕食はおいて行っていかれたようです」


「…そうですか」

そんなに顔も見たくない?

光…


「お嬢様?」


「はい!?」

あ、そうだ。

早苗さんが光の代わりをしてくれて、今食事中だったんだ…


「ふふ、ずっと上の空ですね」

困ったように笑う早苗さん。


「…ごめんなさい」


「いいえ、いいのですよ。気になって仕方がないんですね」


「それは…!」


「喧嘩でもなさったのですか?」


「…まぁ」


「あ、申し訳ありません!私ったら…」


「早苗さん、聞いてもらえますか?」

私は笑って聞いてみた。


「…お嬢様がそれを望まれるのでしたら、喜んでお聞きいたしますよ」

ふわりと、早苗さんは笑った。


「私、光のことが好きで。でも、光に好きな人がいるって…知っちゃって…」

夕食を食べ終え、早苗さんと紅茶を飲みながら、私は話していた。


「それで?」


「光がいないと、なにもできない自分に気が付いて、嫌になって…光が私から離れたくなった時、私、ちゃんと光の願いを受け入れてあげられるのかなって。思って…」


「…」


「光に頼らないようにしなくちゃって、思ったんです。光がいつか私から離れていってしまうとき、一人になっても大丈夫なように」


「光さんはお嬢様から離れたりしないと思いますよ?」


「この世に、永遠なんてものはありません。私と…光だって。光がその好きな人へ、思いが届いたとき、その子は、私が隣にいるのを嫌がると思うんです」


「どうしてですか?」


「だって、彼氏の隣に別の女の子がいるのって、不安になりません?そんなことで、光に迷惑かけたくないんです」

今まで、ずっと、迷惑をかけてきたから…

私は俯いた。


「お嬢様、行きましょうか」


「どこに…?」


「光さんは、本当にそれを望んでいるのでしょうか。お嬢様が、光さんから離れたときの光さんの顔、見ましたか?」

光の、顔?


「私たちは、光さんがそう思っておるようには、到底思えないのです」


「…」


「だって、離れたいと思っている人と、毎日一緒に帰りますか?身の回りのお世話を隅々までこなしますか?光さんは、少なくとも家では、お嬢様の横をほとんど離れていませんよ」

たしかに…


「お嬢様の隣には、いつも、光さんがいらっしゃいます」

いつだって、光がそばにいてくれた…。


「お嬢様が一人で何もできないと、思われるようになったのは、光さんが毎日一緒にいてくれてからではないですか?」


「そうよ、だから光から離れようと…」


「お嬢様、私はもしも、いきなりお嬢様に離れられたら、すごく、哀しくなります。どうしてだろう、何かしたのか。…自分を、嫌いになられたのか…」


「そんなことは…!」


「それは、私に言うことではないでしょう?お嬢様」


「…」

私は俯く。


「言わなければ、わからないこともありますよ」

いくら、ずっとそばにいたのだとしても。

そう、早苗さんは言った。


「…」


「大丈夫です。私が保証いたします」


「早苗さん…」


「まいりましょう、お嬢様」


「はい…」

私たちは、光の部屋に向かった。


「では、いってらっしゃいませ。お嬢様」


「え、私だけ!?」


「当然でございます。私が入る必要はありません」


「早苗さん…」


「ダメですよ、お嬢様」

いたずらっ子のように笑った早苗さんは来た廊下を戻って行った。


えーーーーーー!!!


コンコン

「光」


「…」


「光?」


「…」

もしかして、すっごく怒ってるのかな…


「ごめん、光。話がしたいの」


「…」


「…入る、よ?」

カチャ


「光……」

私は光の部屋に入り、俯いていた顔を上げた。

そこには


「…光!?」













倒れている光がいた。