田中は優にもひとしきり同じような説明をした。


「なるほどね…」と呟く優。


「って言うことは本番まで3週間しかないわけか」


「そうなんです…」
申し訳無さそうに田中が答える。



「事情はわかったけど、何をやる予定なの?その舞台は」


さっき優が入ってくる前に昴も聞こうとしたことだった。
少し前のめり気味に昴は聞く。


「…サウンドオブミュージック」


その想像以上の一言に唖然とするしかなかった。


「そんな大作を…」
目を合わせる昴と優。


「主演2人が出れなくなっちゃって、2人にお願いしようと」


「と言うことは…優がトラップ大佐?」
昴の質問に頷く部員全員。


「当たり前だろ…俺がマリアなんてやってみろ。色んな意味で見ものだよ」


そのやりとりにプッと田中は吹き出したが気を取り直し、改めて尋ねる。


「お二人に出ていただきたいんです。
どうでしょうか?」


しばらくの沈黙の後、優は「うーん…」と声を漏らした。


演技もあり、歌もある。
それを3週間というのはかなりのハードスケジュールだろう。


「今回は演奏を全て管弦楽部にお願いしていて、コーラスで合唱部が入る舞台になります」


「かなり…本格的なんだね」と昴。


その横で3週間という時間の短さに優は頭を悩ませていた。


「昴は…どうするの?」


「だって困ってるんだよ?」
そう言うと真っ直ぐに優を見つめる。


「確かにそうなんだけどさ…。
現実的にこれは難しいだろ」


優の言葉に田中は俯いたまま2人の話を聞いていた。


「ねぇ、田中さん、ちょっと台本借りてもいい?」


「はい!もちろんっ」


すぐに黄色い表紙の台本が手渡され、昴と優は目を通した。



「昴も見ただろ?かなり量ある。
これに歌やダンスも入ってくるし、アンサンブルとも合わせなきゃいけないんだよ。
これを3週間でやるのは難しい」


「そうだけど…でも!!
私たちがやらなかったらこの舞台はどうなるの!?」


誰もいなくて田中が声をかけたきたことは優にもわかってきた。


「…ちょっと来て」


「えっ、何!?」


優は強引に昴の腕を引っ張ると体育館の外へと連れ出した。
きっちりと扉を閉める。


「この状況わかってる!?
そんな演劇なんてやってる暇ないだろ!」


「暇なんかないよ!これだって片手間でやるつもり無いもん!!」


「だからこそ言ってんだよ」


「だけどさ…」


その言い合いで優の怒鳴り声が廊下にまで響いた。


「考えてみろよ!その3週間って時間の中で俺たちは映画の撮影も入ってるんだ!!学校と仕事の両立でさえ忙しい中で、また更にやること増やす?いい加減にしろ!中途半端になるぐらいなら最初からやらない方がいいよ!!」