そこで声を潜めて蔵之介が言った。


「優、昴ちゃんはいいのか?」


え、何で?と見返すと続けて、
「何でって…そんなのお前が1番わかってることじゃん」


こうやって言われるのは初めてのことで、どう反応していいのか困る優。


「好きなんだろ、昴ちゃん」


ストレートな蔵之介の言葉。
迂闊には頷くことが出来ない。


「優はそういうとこ素直じゃないよね。
相手がどうこうの前に動いてみないと話は進まないと思うよ、僕は」


いつの間にかカバンから楽譜を取り出し譜読みをしながら海斗が言う。


「…って誰も好きなんて言ってない」


「へぇ、そうなんだ。
じゃあ僕が櫻井さんもらうよ?」


「えっ!?」


その優の声は想像以上に大きく響きクラス中からの視線が向けられる。
すみません、と謝罪し教室内は再び文化祭の準備へと話が進められた。


「何動揺してんだよ」


「やっぱり櫻井さん好きなんじゃん」


大袈裟な反応をしてしまったことに自分でも驚く優。
そこまで見透かしていた友人2人はニヤニヤと笑っていた。


「もしかして恋愛禁止とかなの?」


「いや、うちはそんなに厳しいことは言われてないけど、スキャンダルになりそうなことは避けてくれ…って…」


そこまで言ってから優は思わず口が滑ったことに気付き冷や汗をかいた。


「なるほどね、櫻井さんも?」


「いや、それは…」


わからない、という意味で答えたが
海斗がどう受け取ったのかはわからない。
「そっかぁ」とだけ返された。


「とりあえず頑張れよ」


「ちゃんとアプローチするんだよ!」


友人2人から謎の応援を送られたところで丁度チャイムが鳴りホームルームの時間になった。