それから昴の優に対するよそよそしい態度は続いていた。
学校で会っても会話は無く、現場でも必要最低限のみ。


避けられる理由が優にはわからないままだった。


そんな態度を取られ始め2週間少し…およそ半月ほど。
学校では10月に入る少し前のこの時期、文化祭について準備が着々と進められていた。


1組ではお化け屋敷をやることになりクラス係りを中心に分担が割り振られている。


そして優がやるのはお化け屋敷の最後に登場するお化け役。
おまけに衣装は和服と凝った設定。


同じ和服お化けを担当するのはクラスでも優と仲のいい友人2人だった。


「なぁ優、足のサイズは?」


友達2人のうちの1人、真水蔵之介(しみずくらのすけ)が尋ねる。
彼は短い黒髪ですっとした目をしており、弓道の腕はかなりのもの。


「何、突然」


「文化祭の衣装!足元まで合わせろって言われてるから用意しなきゃいけねーんだよ」


あぁ、なるほど。確かに和服に上履は似合わないにも程がある、と思った優は自分の足のサイズを答えた。


「海斗は?」


もう1人の優の友達、久石海斗(ひさいしかいと)は薄い茶色の髪をかきながら振り返った。
管弦楽部の部長は忙しいらしく、授業中は大抵寝ていることが多い。


「…お前寝てただろ」


いかにも話聞いていませんでした、という様子に呆れる蔵之介。


「話聞いてたって!…なんだっけ?」


「海斗やっぱり寝てたろ」


優にまで責められ苦し紛れの言い訳をした後、蔵之介に靴のサイズを答えた。


「え、でも蔵之介これどこで用意するの?」と尋ねる優。


「優、俺の家なんだと思ってんだよ。弓道の真水家だぞ?呉服屋にも伝手ぐらいあるさ」


その言葉に「おぉーさすが!」と海斗。
しかし矢継ぎ早に優は質問をした。


「それって…かなり良いものだろ。
文化祭のために借りて大丈夫なの?」


優の心配する点は蔵之介にもわかったらしく、大丈夫だと返す。


「そんな高いもんじゃないけどな!
まぁお得意さんみたいなもんだから
大丈夫だって」


真水家の凄さを思い知らされたところで海斗が一言。


「優、文化祭どうするの?」


「え?俺?」


参加の可否を問われているのか何なのか分からず、目で聞き返す。
すると海斗は椅子を前後ひっくり返し、後ろ向きに座り直した。


「誰と回るのか、だよ」


「誰とって聞かれても…」


文化祭を回るなんて考えていなかった優は、誰とかなんて聞かれても想像がつかない。
ここはやっぱり友達と回るべきなのかと思いつつも、海斗に聞き返す。


「僕は出来れば彼女と回りたい」と一言。


その発言に蔵之介は吹き出して、
「は!?お前彼女いたの!?」


「俺も知らなかった。いたの?」


驚く2人の視線を浴びた海斗はあっけらかんと笑って答える。


「いない!だから出来ればって言ったじゃん」


紛らわしいんだよお前は!と蔵之介が頭を叩く。