フィルムの中の君




幸いコードネームの撮影所から地下鉄の駅までは遠くなく、人目につくことなく電車に乗れた。
そして揺られること30分ほど。
降り立った駅からすぐ近くにあるビルに入っていく。


「え、ねぇ、待って…
ここ有名なところだよね!?」


それは数日前、昼の情報番組で大物俳優が紹介していた行きつけのお店。
エレベーターで最上階まで行く。


「ここ、すっごい高いところじゃないの!?」と心配する昴。


「値段は気にしなくていいから。
ほら、着いたから行くぞ」


颯爽と歩き出す優の後ろについて行くしかなかった。


現れたのは大きなガラスの扉。
開けると全面ガラス張りになっている窓からは夜景が見えた。


そして奥から急いでこっちに向かってくる男性店員。
きっちりと黒髪を纏め、皺一つないスーツで出迎えた。


「いらっしゃいませ、宮藤様」


愛想のある笑顔を浮かべ、まるで上客のように挨拶をする。


「古谷さん、予約してないんだけど
いつもの席空いてます?」


もちろんでございます、と頭を下げるとその店員…古谷は2人を奥に案内した。


通された席は完全個室であり、プライベート空間と呼ぶのに相応しい。
大きな窓から見える景色に昴は目を輝かせた。


「すごーい!
でもこんな高級なお店よく入れるね」


すると優は笑って、
「事務所でお世話になってる店だから」
と答える。


思い出せば、ここを紹介した大物俳優も優と同じリオンプロモーション所属の俳優だった。


しばらく経ち、注文せずとも数々の料理が運び込まれてくる。


「優、いつ注文したの?」


「ここにお世話になるとき基本的にシェフに任せてるから、その時々によって違うんだよ」


(さすが大手事務所の売れっ子俳優、
言うことが違う)