フィルムの中の君




8月最後だからと言って早く上がらせてもらったものの、何の予定も無い。


「ねぇ昴、申し訳ないけど私これから局に行った後事務所に戻らなきゃいけないの。先帰ってる?」


申し訳なさそうに謝る水島。
そうするね!と答えようとした時、


「でしたら水島さん、少しだけ彼女お借りしてもいいですか?」


着替え終わり私服姿の優が立っていた。


「え、お借りするって…」


「昴料理出来なさそうだし、夕食いかない?」


申し出にどうするべきか困惑する昴。
その一方、水島はいいじゃない!と楽しそうにしていた。


「えっ、水島さん」


「たまには友達と食事しておいでよ!
せっかくの夏休み最後なんだし」


ねっ!と笑顔の水島。
「あ、でもちゃんと夜帰って来なきゃダメよ。明日から学校なんだから」


何がせっかくなのかわからないまま、水島は1人テレビ局へと向かっていった。


置いていかれ唖然とする昴。


(すごい突然だし、投げやりだし、
え、私どうしたらいいの!?)


ポン、と昴の頭に手を置いた。


「優…」


「何ぼーっとしてんの。行くよ」


ほら、さっさと来い、と腕を引く優。
足を止めることなくどんどん進んでいく。


「ちょっ…優、どこ行くの!!」


「どこって…今更何言ってんだよ」


言うこと聞かないワガママなお姫様とのデートですよ、と付け加える。


(ワガママなお姫様!?
それ私のこと言ってるの!?)


ちょっと顔を赤くする昴。


「あ、そうだ。
これから電車乗るんだけどさー…」


まじまじと昴を見て、ため息を吐く。


「な、なに?」


「絶対そのまんまじゃバレるだろ」


そう言うと自分の首に巻いていたストールを外し、昴の首に巻く。
この前感じた爽やかな香りが昴の鼻をくすぐった。


「ね、ねぇ優…
これちょっと暑いよ」


口元まで覆われたチェックのストールに不満を漏らす。
いいから大人しくしてろ、とだけ優は言うとそのまま駅の中に入っていった。