「よーい…アクション!!」
鈴屋の声でカメラが回り始め、いつものように演技をする昴。


スパイ雪村三成、という役を
彼女は完全に演じきっていた。
身に纏う空気、些細な表情や動き、
ちょっとした目線までもがまるで雪村。


ストイックなまでの役作りだと
関係者全員が口を揃えるほどのレベル。


その様子をスタジオのはじでマネージャーの水島は見ていた。


「ちょっといいですか?」
と声をかけたのは軍服姿の優。


次の撮影まで少し時間があり、水島に声をかけた。


「宮藤くん…どうしたの?」


「昴のことでちょっと…」と言い、
被っていた帽子を取る。


「彼女、とても忙しそうですよね」


「…マネージャーの私から見ても本当に多忙だと思う。あの子はよくやってくれてるわ」


「あの仕事の量だと
あまり学校行けないですよね」


そうね、と水島は昴から優へ視線を動かした。


「同じ学校なんだから、
宮藤くんも知ってるでしょ?」


「体育祭の日欠席してたことは知ってます。…去年の文化祭全ても」


その一言に目付きが険しくなる。


「…あの子から何か聞いた?」


「いいえ、僕は何も。
ただ学校の友人にそういう話を聞いただけです」


予想もしなかった優の話にピリッとした空気が張り詰める。
はぁ…とため息を吐いたのは水島だった。


「去年はちょうど仕事が重なっちゃって、どうにもならなかったの。でも文化祭は3日間。そのうち1日ぐらいどうにかしてでもこじ空けるつもり」


ニヤリ、と笑う水島。


「美人敏腕マネージャーさんの言葉なら、絶対その通りになりますね」


笑顔を向けたまま、失礼しますと優はその場を去っていった。
後ろ姿を見送りながらこめかみを押さえる水島。


(全く…なんて16歳なのよ、あなたは)