「おつかれぇぇーーっ!!!!」
浪川の乾杯の音頭で全員がジョッキを持ち上げる。
次々にジョッキ同士がぶつかり合う音がした。
「いやー、
仕事終わりの酒は美味いですねぇ!」
藤森が一気飲みをし、空になったジョッキをテーブルに置いた。
そこにすかさず突っ込んだのは浪川。
「お前今日そんなに出番あるシーン
やってなかったよな?」
しーっ!言っちゃダメです!なんて言う藤森にどっと笑いが起きる。
『コードネーム』がクランクインしてから早1ヶ月。
撮影初日は全員がこれはまずい…と絶望しかけていたが、やはりそこはプロ。
すぐに本来の実力を発揮し、順調に撮影は進められていた。
時間が経つにつれ仲も親しくなっていき、今では頻繁にキャストスタッフを集めて食事に行くようにまでなった。
そんなわいわいと楽しむ中、一言。
「千秋さんやっぱ来ませんねー」
江田がぼそりと囁く。
「あの人はねぇ、ぜーんぶ終わるまでこーゆう打ち上げ来ないんだよぉ」
そう言ってすでに酔いが回ってるスタッフの一人が江田の肩に腕を回した。
「初耳です!!」
本当ですか!?と江田は驚く。
「千秋さんレベルの大物俳優になると難しいもんなんですねぇ!
普段はめっちゃいい人なのにぃ」
そんな藤森の発言を聞き浪川が言う。
「撮影初日、千秋さんに圧倒されて台詞出てこなかったのは誰だよ〜?」
「違いますー!頭にはありましたー!
でも、あまりの迫力に体が動かなかったんですよねぇ」
周りに座ってるスタッフが
「あぁ〜」と笑いながら頷いている。
「けど、あの2人は凄いっすよね」
若手のADの言葉に再び頷くスタッフ。
ようやく察した藤森は、
「え?あぁ…宮藤くんと櫻井さん?」
そんなの当たり前だろ!と頭を叩いて突っ込む浪川。
「特に昴ちゃん。あの初日にあれだけやるなんてすごいよな」
煙草を吸いながらカメラマンが褒める。
「あんな演技力持った子、滅多にいないよ!今の若手の中じゃずば抜けてトップでしょ」
生お代わり!と注文した後で浪川は話に戻ってきた。
「俺、黒鳥の最終回見たんだけどさ、宮藤優はやばい。あれは凄すぎる」
その話に照明スタッフが大きく頷いた。
「彼も凄いよねー。清純な少年のイメージだったのに、狂気に満ちた男って役がハマりすぎてたわ」
ワーワーと盛り上がるテーブル。
そこに藤森がボソッと言った。
「そうですかねぇ」
え?と顔を見る江田と浪川。
「あのレベルだったら、あの年代でも他にいるでしょ」と辛辣な発言。
「藤森くんマジで言ってんの?」
カメラマンが藤森の発言を疑った。
「優も昴ちゃんも相当なモンだよ?
日本の役者の中じゃトップクラス。
将来は世界的にー、なんてあり得ない話でも無いだろ」
浪川の言葉が気に入らないのか、藤森は眉間に皺を寄せて箸を動かす。
唐揚げ藤森に食われるぞー!と浪川が叫ぶと一斉にみんなが唐揚げを取って行った。
(宮藤…本当にあいつ気に入らないわ)
