雪村の頭に何かが当たったのと黒鷺の首に何かが当てられたのは同時だった。
…カチャ
右耳のすぐ上で安全装置が外される。
雪村はこめかみに当てられた銃に臆することもなかった。
『何故私の動きが読めたのかね』
黒鷺に向けられた刃は首筋に当たるものだけではなく、右目の前にも向けられていた。
距離はわずか1㎝といったところ。
少しでも動けば確実に失明する。
ふっ…
不敵に笑ったのは黒鷺ではなく雪村だった。
『さぁ黒鷺さん、
本番はここからですよ』
カーーーーーット!!!!!
鈴屋の声が響き渡りカメラが止まる。
ハッとしてメイク担当のスタッフがそれぞれ千秋と昴の元に寄り細かいメイクを直す。
「まじかよ…」
浪川と藤森は唖然としてその様子を見ていた。
「これ…リハ無しでぶっつけですよね」
藤森の言葉は質問というよりも自分自身で確かめるかのよう。
傍で見ていた優は白い手袋をして小さく拍手を送る。
千秋と昴の動きは何度も練習を重ねたとしか思えないほどタイミングが合っていた。
そして黒鷺の纏う空気と威圧感に臆することの無い雪村を見事演じた昴。
「昴ちゃん!」
鈴屋はすかさず昴を呼び寄せた。
「これ千秋さんと練習したの?」
「い、いいえ…まだ…」
言いずらそうに返事をする。
「雪村よかったよ」
「ありがとうございます!!」
鈴屋の評価に一気に表情が明るくなる昴。
これが噂の櫻井昴…
その場にいた全員が認めざるを得なかった。
