「シーン62、よーい…アクション!!」
鈴屋の声でハッと目を開く昴。
同時にカメラが回り始めた。
『…どうやら全てわかったようだな』
黒鷺の低い声が鼓膜を振動させる。
重苦しい雰囲気が一気に伝わった。
雪村は動じることなく黒鷺の後ろ姿を見ている。一切表情は変わらない。
椅子を回し黒鷺は雪村の顔を見た。
2人の間に流れる空気にスタジオ中がピリッとする。
カメラマンが固唾を飲んで見守っていた。
『えぇ、さすが黒鷺さん。いえ、元帝国諜報機関の要…ヴィントとお呼びするべきでしょうか』
一瞬、黒鷺の目が変わったかのように見えた。
外の光が一切届くことの無い部屋。
唯一の明かりはぼんやりと光るランプのみ。
『コードネームまで調べ上げたか…』
それぐらいスパイならば当然です、と雪村は言葉を放つ。
薄っすらと口角を上げ黒鷺は言った。
『さすが…と賞賛すべきか、
はたまた危機感を感じるべきか』
『さて、どうでしょうか。
それは黒鷺さんならおわかりでしょう』
ふっ…と笑ったのは束の間、
立ち上がった黒鷺は人間業とは思えぬ早さでカーテンを開け雪村の背後に回った。
