『潜入期間は1週間。
それがお前に与えられた時間だ』


静まり返った部屋の中で低い声が響く。
轟く、という言葉の方が相応しい。


置かれている装飾品の数々が圧迫感を感じさせた。
床には高級そうな毛の短い紅いカーペットが敷かれている。


『可能か?』
そう目の前に立つ部下に問う。


どこまでも深く暗い闇のような眼。
それは地獄というものを見た人間にしかなし得ない。


『……っ』






彼の部下を演じていた俳優は言葉を発することさえ出来ず、鈴屋がカメラを止めた。


「江田くん!何やってるの!!」


「…すいませんっ」


スパイで部下の1人である杉下役の江田かい。空気に飲み込まれ声が出なくなったという。


その様子を見ていた昴と優も圧倒されたほどだった。


「さすが千秋さんだな…
俺らも鳥肌立っちまったよ」


後ろでは照明の言葉に頷く他のスタッフたち。


今回スパイの元締め…所謂スパイマスターの黒鷺を演じるのはベテラン俳優の千秋柳。
ハリウッド映画にも出演する千秋の演技に圧倒されていた。


「凄いね…黒鷺」
昴の囁きに優も頷く。


「仕方ねぇな…」と鈴屋は台本を捲る。
杉下とのシーンは保留し、別のところから撮ると指示を出していた。


「じゃあ25からいくぞ!用意しろ」


拒むことを許さない鈴屋の声に、全員が慌てて準備に取り掛かった。