監督の鈴屋とカメラマンたちが最終確認をしている。
アクションシーンは数台のカメラで多方向から撮影するため細かい指示が出ていた。

練習は竹刀を使っていたが実際に刀を持つとずっしりした重量感が伝わる。
衣装のスーツは細身のシルエットで動きにくく、刀を大きく振るシーンで腕が上げにくい。

昴は何度も何度も自分と相手の動きをイメージしながら体を動かした。

「じゃあ櫻井さん、一緒にやってみようか」

昴と異なり、千秋は深い緑色の和装だった。
もともとの渋い雰囲気には似合っているが相当動きにくそうだ・・・と昴は思った。

つうっと背中に一滴汗が流れるのを感じた。

「…はい!いきましょう!よろしくお願いします」

カメラ横にはアクション指導の田中と鈴屋が並んでいた。
二人とも真剣な眼差しでスパイ2人を見ている。

「では用意・・・アクション!」








『黒鷺さん』

もう少しで完全に陽が落ちるという時間帯、スパイマスターの黒鷺(千秋)はある屋敷の庭にいた。
2階バルコニーから雪村(昴)が声をかける。

自分を呼び止める声に動きを止めたが振り向くことはしない。

『あなた二重スパイだったんですか?』

雪村からは黒鷺の後ろ姿しか見えない。
心なしか黒鷺の影が少し揺れたように見えた。

両者言葉を発しない空間は風の音、木が揺れて葉が擦れる音が騒がしく聞こえる。

『・・・あいつらが何か言ったか?こんなところにいるなんて貴様も暇を持て余しているようだな』

黒鷺は柳田(浪川凛太朗)と斎藤(宮藤優)の部下2名のことを指した。